『+51 アビアシオン,サンボルハ』


▷Project

横浜・若葉町に新しくオープンした劇場「若葉町WHARF」から発信する、《境界/遊歩》をテーマにした連続企画の第一弾。

移民の子孫としてのルーツと向き合い続ける劇作家・神里雄大が2015 年に発表した『+51アビアシオン,サンボルハ』を上演。

歴史上の亡命者や移民との妄想的な対話、また作家自身の祖母との交流などを虚実織り交ぜつつ、「人々の移動と他者の集まる社会」を問題としたこのテクストは、第60回岸田國士戯 曲賞・最終候補ノミネート作品としても注目された。

主語も場所も時制も縦横無尽に横断していく独特の文体、逡巡しつづける〈わたし〉がたどり着く場所は一体どこなのか?

「己のルーツですらも観光するしかないひとびとの振る舞い」を演劇化。


▷あらすじ

オリンピック決定を知らせるまえの東京都中央区の茶こけたビルの一室で、目覚めると演出家である〈わたし〉の真横には、メキシコ演劇の父、〈セキ サノ〉が立っている。ペルー移民の子孫である〈わたし〉は、じぶんのルーツを辿るように、東京→沖縄→ペルーと、旅をする。道中では、夢か現実か、セキサノがあらわれ、あるいはペルーに移り住んだ祖母との対話のなかで、〈じぶんは誰なのか?〉というルーツをめぐる物語。


舞台写真:青木 祐輔


会場       若葉町WHARF


原作       神里 雄大


出演       平井 光子 立本 夏山 牧 凌平


演出・構成    鹿島 将介


美術・衣裳    富永 美夏


照明       山澤 和幸


音響       佐藤 武紀


演出助手     飛田 ニケ


宣伝美術     青木 祐輔

舞台写真


記録映像     ロブ・モレロ


協力       小濱 昭博 瀧腰 教寛 夏山オフィス


主催       重力/Note


フライヤーデザイン:青木 祐輔

しっぽをつかまれないデタラメ


闇のなか、山の向こうから人が叫ぶ声が聞こえる。何を言っているのか殆ど聞きとることのできないそれは、懐中電灯の光の僅かな揺れによって、その存在を伝えている。芝生を転がりながら台詞をまくしたてる者。突然、森から四駆車が勢いよく飛び出し斜面を滑走、すべての俳優たちを連れて走り去る。残された観客は呆然。「俳優がいなくなったんだから終わりなんだろう」、審査員の一声で幕が閉じた。これは利賀演出家コンクール『しっぽをつかまれた欲望』のラストシーン。爽快なまでにデタラメな想像力。カミサトユウダイという名前に遭遇したのは、このとき。てっきり演出家だと思っていたら、いつのまにか戯曲も書いていた。
ところで、約束しよう。この作家はあなたをどこまでも連れていく。行き先は、東京→那覇→ひめゆりの塔→大宜味→辺野古→ペルー→カヤオ→サンボルハ→……テクストはまるで旅行記さながら。作家自らのルーツを辿る道すがら、逡巡し続ける〈わたし〉の足取りは、三十半ばで生きていくことの意味を見失った『La Divina Commedia』のダンテにも似ているようでいて、そうかと思えばケルアックの『On the Road』顔負けのビートと縦横無尽な行動力に呆気に取られてしまうかもしれない。だが、最後までついてきて欲しい。何故か? カミサトユウダイは、あなたの遠い祖先のことについて考えている。あるいは、あなたのそう遠くはない子孫のことについて。もしくは、あなた自身の居場所について、あの爽快なまでにデタラメな想像力を駆使して、いつのまにか、ワザワザ海を越えて、まで。
今回は横浜・若葉町に新しくオープンした劇場「若葉町WHARF」から発信する、《境界/遊歩》をテーマにした連続企画の第一弾。イミン、ナンミン、ボウメイ……ほんの少し前の時代まで、これらの言葉が持っていたシビアな緊張感を、すっかり私たちは忘れてしまっている。いや、本当に忘れているのは、これらの言葉がふたたび緊張感を帯びてきたことについてかもしれない。かつて新天地を求めて、多くの先人たちが飛び出していった横浜港もほど近いところにある劇場。多種多様な人たちが流れ着くアヤシゲな町の気配とセットで、この公演を愉しんでもらえればいいと思う。                                 鹿島 将介


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▷Sight/Seeing/Street(コンセプト&イラスト作成:飛田ニケ ▽タップすると稽古場日誌が読めます)


▷演出助手・飛田ニケによる創作プロセスの取材&当日パンフレット


▷トークゲスト

山﨑健太】(8月31日の回)

1983年生まれ。演劇研究・批評。演劇批評誌『紙背』編集長。「CoRich舞台芸術まつり!2017春」審査員。早稲田大学大学院文学研究科表象・メディア論コース博士後期課程。「現代日本演劇のSF的諸相」(『SFマガジン』2014年4月号〜2017年4月号)など。

渋革まろん】(9月3日の回)

08-12年、京都にて演劇フリペ「とまる。」編集長。座・高円寺劇場創造アカデミー4期修了。演出家としては、15年より街を散策して謎をはらんだ人間の身振りや行為を観察する「トマソン観察会」を月一開催。トマソンに感謝を捧げる「トマソンのマツリ」を年一開催。その他、ドラマトゥルクとしてMarron Booksを不定期発行。代表作に小嶋一郎&250km圏内の5年間をまとめた「コンセプトブック」がある。17年からゲンロン×佐々木敦「批評再生塾」三期生。


【神里 雄大 Yudai Kamisato】 *劇団HPより転載
1982年、ペルー共和国リマ市生まれ。父方は沖縄出身のぺルー移民、母方は札幌出身という境遇のもと、神奈川県川崎市で育つ。10代の数年間にはパラグアイ共和国、アメリカ合衆国などでも生活。2003年の早稲田大学在学中に岡崎藝術座を結成し、オリジナル戯曲・既成戯曲を問わず自身の演出作品を発表。日常と劇的な世界を自由自在に行き来し、俳優の存在を強調するような身体性を探求するアプローチは演劇シーンにおいて高く評価されている。ここ数年間は、自身のアイデンティティに対する関心の延長線上で、移民や労働者が抱える問題、個人と国民性の関係、同時代に生きる他者とのコミュニケーションなどについて思考しながら創作をしている。『亡命球児』(「新潮」2013年6月号掲載)によって、小説家としてもデビューした。

*神里雄大の戯曲はこちらからダウンロードできます(一部無料で閲覧可)→https://note.mu/kamisatoy/m/m16701913260c


Profile

【平井 光子 Mituko Hirai】
1982年生まれ、静岡県出身。大阪大学文学部演劇学専修卒。青年劇場附属養成所を経て、2005年から2012年まで青年劇場に在籍。退団後、重力/Noteに所属する。重力/Noteでは『人形の家』、『イワーノフ』、『かもめ』などに出演。そのほかの出演作に『母』(作:ヴィトカッツィ 演出:ルティ・カネル)、『奴隷入門』(作・演出:大岡淳)、日本現代音楽協会『ジェルジ・リゲティ 没後10年に寄せて』などがある。

【立本 夏山 Kazan Tachimoto】
1982年生まれ、静岡県出身。18歳にて文学座演劇研究所に入所。流山児☆事務所、俳優座演劇研究所を経て重力/Note、新宿梁山泊、燐光群などの作品に出演する。2014年Arts Chiyoda 3331 千代田芸術祭にて伊藤千枝賞受賞。2016年7月アヴィニヨン演劇祭、ブラジルMIRADA演劇祭におけるアンジェリカ・リデル作品に出演。また小池博史ブリッジプロジェクト『風の又三郎2016 ODYSSEY OF WIND』『世界会議』に出演した。

【牧 凌平 Ryohei Maki】
1991年生まれ、群馬県出身。慶應義塾大学薬学部卒業。劇団かけっこ角砂糖δの主宰をつとめている。劇団では劇作・演出を行い、自身は役者としても活動。大学卒業後、東京都杉並区にある公立劇場「座・高円寺」付属の研修所である劇場創造アカデミーに入所し、7期生として修了した。近年の出演作は『戦争戯曲集三部作 第一部「赤と黒と無知」』。


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