A MAN


諦めることは、何かに屈服することから始まる

▷Project

『LOVE JUNKIES』において位置づけた〈一人になる芝居〉シリーズ第二弾

長い歴史において、私たち人類が期待/幻滅してきた〈男〉とは一体何だったのか? 

彼らはいまどう在って、これからどこへ向かおうとしているのか?

旅先での思索を記すことで知られる思想家アルフォンソ・リンギスのエッセイ集『信頼』を演劇化

仙台を拠点に国内外で旺盛な活動を続ける俳優・小濱昭博が出演


▷あらすじ

廃墟になった家の前で、男が立ち尽くしている。かつて住んだ家の間取りを確かめる最中、ひき裂かれた手紙から混じりこんでいく見知らぬ男女の記憶。二人の破局をめぐるイメージは、やがて暴力と勇気の歴史へと誘う……。


©︎舞台写真:岩渕 隆


会場        せんだい演劇工房10-BOX box-1


原作        アルフォンソ・リンギス(『信頼』より)
翻訳        工藤 順


出演        小濱 昭博


演出・舞台美術   鹿島 将介


舞台監督・照明   山澤 和幸


音楽        中里 広太


制作        志賀 彩美(演劇ユニット 箱庭)


制作補助      安齋 琴恵 横澤 のぶ


宣伝美術      青木 祐輔


撮影        岩渕 隆


協力        University of Minnesota Press 劇団 短距離男道ミサイル チェルノゼム 

          演劇ユニット 箱庭 ゆめみるけんり 木もれび食堂 

          本多 萌恵 阿部 豪毅 


助成        公益財団法人仙台市市民文化事業団(2021年度分・翻訳WSおよび著作権関連)


主催        重力/Note


ハッシュタグ    #重力Note #AMAN小濱昭博


上演時間      約75分


再演        ◯


本公演は一般社団法人緊急事態舞台芸術ネットワーク「舞台芸術公演における新型コロナウイルス感染予防対策ガイドライン」及び、公益社団法人全国公立文化施設協会「劇場、音楽堂等における新型コロナウイルス感染拡大防止ガイドライン」を遵守し公演の準備・運営を行いました。


フライヤーデザイン:青木 祐輔

▷舞台美術(デザイン・加工:鹿島 将介 作製:山澤 和幸)

開場時の舞台 ©︎舞台美術:鹿島 将介 ©︎写真:岩渕 隆

▷当日パンフレット(デザイン・作成:志賀彩美)

▷当日パンフレット挨拶文

「勇気と信頼には共通点がある」と始まるアルフォンソ・リンギス『信頼』を演劇化するのは、今回で二作目となります。

前作では〈信頼〉、今作は〈勇気〉にフォーカスし、不合理で不確かな行動を選び取っていく人間について向き合ってみました。昨今様々な出来事に対する応答をめぐって、誰しもがスタンスを問われる時代になってきたというのもありますが、その一方で目の前にある事態に対し「実際に〈勇気〉を求められる選択肢とは何であるか」を見極めるのはますます難しくなっている気がします。個人の意志と選択を装いながら、気がつかないうちに選ばされているのが現代とも言えるからです。

ところで〈勇気〉と〈勇気みたいなもの〉のあいだでうつろうことは、人生を振り返るとよく見受けられます。どうも〈勇気〉は忘れっぽい。生きていく中で、間違いなく捨て難い選択肢の数々に対してのっぴきならない決断を重ねてきたはずなのに、今となっては綱渡り、全ては偶然の産物だった気さえする。明瞭に憶えている決心だと思い当たるものでさえ、説明しやすいように物語化され、捨てた選択肢やそれに関わりある人やものの存在への想いがそう思わせているふしがあります。あのとき働いた意志の働きにしても、現在の私たちにおいていまなお揺るがない決意として思い描くことができなかったりもします。たしかに〈勇気〉をめぐる意志と行動のモデルは、歴史の中で様々な描かれ方をしてきたし、それは繰り返し演じられるけれども、いま私たちにとっての〈勇気〉は一体どんな在り方を求めるものなのか? 一貫したものなのか点在するものなのか? 明瞭なのか曖昧なのか? かたいのかやわらかいのか? 

こうした問いを抱きながら取り組まれ、テクストに潜む〈声〉に耳をすましながら、ようやく本日『A MAN』を皆さんにお届けできます。前作から二年十ヶ月も発表が延び、その間に出演する小濱昭博さんはじめメンバーそれぞれの人生の季節を迎えました。私たちを脅かす厄災の数は増える一方ですが、各々できることから始めましょう。皆さんとこうして劇場にてふたたび集いあえたことに感謝しています。

                               鹿島 将介 


Creation process

©︎写真:岩渕 隆

▷リモート稽古&創作体制

2019年『LOVE JUNKIES』での経験を踏まえて、オンラインでのブレインストーミングに時間をかけた。コロナ禍による配慮から〈旅する稽古場〉は断念したものの個人作業でできることに注力、上演用の稽古は劇場入りしてからおこなわれた。またひとり芝居という形式上クローズになりがちなコミュニケーションに対し、ハラスメント予防を兼ねて稽古場・演出・制作の各テーマごとの連絡はグループを組み、発言をオープンにしながら進行した。


▷工藤順によるテクスト翻訳作業

リンギスのエッセイ集『信頼』から『男』と『手紙』を訳出し、それらを組み合わせた上演台本を作成した。小濱昭博から出た単語や文章への意見交換、朗読音源を聴いた上での微調整などを経て決定稿に至る。本多萌恵が著作権管理団体(University of Minnesota Press)との交渉を担当し、許諾を得た。


▷ジェンダーによる読解の違いを洗い出す

原作テクストをメンバー間で読み、センテンスごとに感じた違和感や価値観の相違を忌憚なく意見交換する作業をおこなった。男性性に関する記述に対して、年齢・性別・地域などから生じる差も含めて読み解き、制作チーム(志賀・横澤・安齋)には価値観のギャップが著しい箇所には具体的なコメントをもらった。なお、新旧の価値観を同在させた複雑系を描く方針から、価値観の現代性にのみ寄せたテクストの改編はおこなっていない。


▷アクチュアリティの変遷(コロナ禍による公演延期と中断、ウクライナ侵攻の影響など)

2021年8月頃に急拡大したコロナ感染を受けて初の公演延期を決断、同時期に強行開催された東京オリンピックとは別のスタンスを取った。また2022年2月末に起こったロシアによるウクライナ侵攻が浮き彫りにした兵士/軍隊の存在感や愛国的行動の称賛は、クリエーションや観客に対しても少なくない影響が及ぶことになった。


▷山澤和幸による照明デザイン&オペレーション

鹿島がスケッチした舞台美術プランをもとに山澤和幸が3D図面を作製、それを叩き台に照明デザインの基本設計がおこなわれた。主軸となる光源以外は、劇場に入ってから小濱の動線やアクティングエリアを観察しながら加えた。『LOVE JUNKIES』に続き、舞台美術と照明の可変性と融合度が高い仕上がりとなった。

©︎写真:岩渕 隆

▷サウンドデザイナー中里広太による作曲&即興オペレーション

オンラインでの打ち合わせが基本、事前に台詞の入った音源を加工してイメージを共有。劇場入りしてからは、演技と空間の進行を観察しながら微調整を加えていった。上演回によって際立たせる音やオペレーションが異なる即興的なアプローチを取った。

©︎写真:岩渕 隆

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▷コミュニティ・コレクティヴ構想と実践

演劇公演を単体・単発のイベントとして閉じこもるのではなく、プロジェクトメンバーも観客も、ひとりひとりが複数の所属やフォロワーを抱えた存在として集っていることを基本イメージに、結び目を顕在化しながらアプローチしていく運営モデル。まだ模索段階だが、仙台エリアのイベントやSNS上で関連するワードを拾いながら情報展開した。トーク配信時にそれぞれの趣味趣向や価値観をクリアにしていくことを心掛けたり、スタッフワークを見える化してアーカイブすることも実践の一つ。


2021年9月5日「翻訳から『信頼』を考える––英→日翻訳ワークショップ」開催 

工藤順が担当したWS。一つの「正しい」翻訳を目指すのではなく、一つの文章から生まれる様々な読み方や解釈を大切にした。感染症対策によりZoomでの開催に変更となった。

助成:公益財団法人仙台市市民文化事業団(2021年度分)


▷インタビュー企画&トーク配信

延期前の期間は横澤のぶによるインタビュー、4月公演変更後はプロジェクトメンバー総出でトークを配信。作品紹介のほかに正社員兼業での表現活動の可能性や、メンバーが影響受けた作品など話題は多岐に渡った。また準備期間中に小濱昭博が関わったイベント(クグリド『Frankenstein』”推し”を魅力的に語る2022etc)についての紹介や参加した観客へのヒアリングなど、仙台エリアで生まれるイベントやスポットへとブリッジした。

©︎デザイン:横澤 のぶ

▷苗券(なえチケ)システムの実施

〈未来に向かってワクワクを植える〉をコンセプトに、お客さまが学生さん宛にチケットをギフトできる券。ご予約時にお名前・SNSのアカウント・コメントを備考欄にご記載いただくと、チケット残数を案内する際にご提供者さまとしてご紹介するシステム。人から人へ、未知と偶然で結ぶ試みに。県外からや文化のバトンリレーを望む方々が購入し、主に仙台エリアの大学生たちが使用した。チェルノゼムのカルチベート・プログラム参加者だった制作チームによる試み。


▷オンライン受付(横澤のぶによるリモートでの現場参加)

リモート型の創作体制から生まれた当日制作のアプローチ。回線状況次第では若干ラグがあり、もてなす側がケアされるような関係性が生じたりする点も。『かもめ』で試みた市民ドラマトゥルクに続き、プロジェクトの関与や参加方法を拡げるポテンシャルを見出している。

©︎写真:志賀 彩美

▷原作テクストの出版

翻訳者・工藤順が自らデザイン&印刷した原作テクストの冊子。『A MAN』のほかに、今回は鹿島将介と小濱昭博の「創作ノート」の一部も収録されている。延期前の2021年9月までの創作プロセスが記録されており、2022年4月公演版とは別角度の問題意識を辿ることができる。オンラインストアにて発売中。

©︎デザイン:工藤 順 △画像をタップするとオンラインストアで購入できます

▷岩渕隆による記録撮影

陰翳の妙味と光量の調整が難しい条件の中、かぎりなく上演の雰囲気を記録するべく試みた。広報展開した写真には俳優の姿が際立つように明度を編集したバージョンと、実際の上演に近づけたバージョンの二つが存在する。劇団HPでは後者を採用。

©︎写真:鹿島 将介

個人の力が及ばず、何事に対してもリスクが頭によぎる生活を送る中で、人が集まることの意味から向き合い直さなければならない状況が続いています。

「こんな悲惨な世界において、人類はまだ勇気と信頼に賭けることは可能なのか?」という疑念と不安を抱える私たちに対して、リンギスのテクストは多くの問いと気づきの光を投げかけてくれます。

前作『LOVE JUNKIES』で小濱昭博さんと共に挑戦した〈ひとりになる芝居〉という上演形式は、その後到来したCOVID-19パンデミック、東京五輪開催をめぐる議論、そしてウクライナ侵攻の実況を経て、それぞれの考えと立場が問われる経験を重ねたことでより先鋭化・多義化しています。

本作は〈ひとり芝居〉の再定義であると共に、私たちの勇気と信頼の再生の儀式です。

鹿島 将介  


【アルフォンソ・リンギス Alphonso Lingis】
1933年生まれ。哲学者。ペンシルヴァニア州立大学名誉教授。リトアニアからの移民の子として、シカゴ郊外の農場に生まれる。学生時代は精神病院で働いていた。フランス現象学と実存主義の研究者としてスタートし、のちにバタイユやブランショの思想に接近。メルロ=ポンティ、レヴィナス、クロソウスキーの翻訳者としても知られる。また世界中を旅し異国で生活をする思想家としても名高く、その経験を発端とした哲学的な洞察をもとに、越境的な想像力と情動を孕んだ独特の文体で読者に問いかける。主な著書に『信頼』『汝の敵を愛せ』『何も共有していない者たちの共同体』『異邦の身体』『暴力の輝き』『わたしの声:一人称単数について』などがある。

写真&加工:鹿島 将介

Project Member

【小濱 昭博 Akihiro Kohama】
1983年、宮城県仙台市生まれ。俳優、演出家。宮城教育大学在学中に演劇を始める。「劇団 短距離男道ミサイル」所属。自身で演出も行うユニット「チェルノゼム」でも活動中。拠点・仙台以外にも東京や京都、フランス、チュニジア、香港など広く活動の場を持つ。息づかいや身体造形にこだわり構築する、変幻自在な人間像で観客を魅了する。

【工藤 順 Nao Kudo】
1992年新潟生まれ。ロシア語翻訳労働者。詩と翻訳のzine「ゆめみるけんり」主宰。アンドレイ・プラトーノフ『不死』(未知谷、2018)編訳、重力/Note公演『LOVE JUNKIES』(2019)で翻訳を担当。共訳によるプラトーノフの長篇小説『チェヴェングール』を2022年刊行予定。

【山澤 和幸 Kazuyuki Yamazawa】
1988年生まれ。照明家、舞台スタッフ、俳優。宮城県出身。大学卒業後からフリーランスの俳優、スタッフとして演劇やダンスに横断的に取り組む。日常的に物思いにふけることが多く、単純で繊細なものを好む。過去照明として関わった作品 2020年 屋根裏ハイツ『ここは出口ではない/とおくはちかい』、2021年 仙台シアターラボ『ペスト』東京公演等。

【中里 広太 Kota Nakasato】
1983年仙台市生まれ。サウンドデザイナー。2008年より音の即興アーティストとして活動をスタートさせる。これまでに多ジャンルのアーティストとのコラボレーション多数。近年はサウンドインスタレーションも発表しており、年一回個展を行っている。仙台で結成されたレーベル「ネオ・ノイジズム・オルガナイザーズ」に所属し、関本欣哉とのDJユニット「APETOPE」としても活動中。2016年9月、「月刊コータプロジェクト」始動。2019年、2枚目のCDアルバム『Foot Scape』をリリースした。

【志賀 彩美 Ayami Shiga】
1993年生まれ。制作/俳優。福島大学演劇研究会卒業後、演劇ユニット 箱庭をたちあげ、2018年宮城県へ移住。仙台市を中心に、制作/俳優として箱庭だけでなく、他団体への参加も精力的に行う。民間企業正社員として働きながら、演劇活動を両立/兼業できる生き方を模索する。綿密な企画書をもとにした実直な制作進行、手厚い接客対応に高い評価を得る。2020年より、仙台舞台芸術フォーラム 2011→2021東北・制作を担当。

【安齋 琴恵 Kotoe Ansai】
1997年生まれ。社会人2年目。高校から演劇を始め、東北学院大学演劇部では俳優/制作で内外問わず活動。卒業後は就職を機に7年続けた演劇を休止。シフト制民間企業と演劇を両立出来るか挑戦を始めた。卒業公演「止まらない子供たちが轢かれてゆく」に出演。

【横澤 のぶ Nobu Yokozawa】
1997年生まれ。演出/俳優。宮城県仙台市出身。東北学院大学教養学部人間科学科卒業。東北学院大学演劇部OG。学生時代は演出として、仙台短編戯曲賞を中心に公演を手がける。また、積極的に劇団や他大学演劇部との交流を持ち、他大学合同WSを企画、開催する。現在は長野県松本市で働きながら、演劇活動を行う。仙台と松本をつなぐ架け橋になりたい。出演代表作品はチェルノゼム「わたしたち/ロミオとジュリエット」である。

【鹿島 将介 Nobusuke Kashima】
1983年生まれ。千葉県出身。重力/Note代表・演出・ひとり芝居作家。「次なる舞台俳優のための育成プログラム〈Ship〉」プログラム・ディレクター。2019年からは鎌倉を拠点に活動中。人類史上において破局的な経験を描く作家/テクストを中心に取りあげ、その物語と構造を必要とした共同体の生存感覚を分析し再構成して演劇化する。主な作品に『雲。家。』(F/T12公募プログラム参加作品)、『偽造/夏目漱石』(第20回BeSeTo演劇祭BeSeTo+参加作品)など。2013年には『子午線%石たち』(若伊達プロジェクト)、『リスボン@ペソア』、2019年は『LOVE JUNKIES』を仙台で上演した。


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