▷Project
芸術の革新を目指す青年、女優志望の恋人、中年の流行作家らが織り成すA・チェーホフの傑作ドラマ『かもめ』。前作『人形の家』『イワーノフ』で、そのあたらしい表現形式が話題となった重力/Noteが8年ぶりに『かもめ』に挑戦した。
新聞記事・小説・詩・エッセイ・対談など多様なテクストをコラージュして現代演劇を作り出してきた重力/Noteが、どのように読解して上演するのか? 近代古典の現在地を描く試み。
関連企画として、《チェーホフ×ロシア料理》と題した吉祥寺CAFE RUSSIAでのキックオフ・ミーティングのほか、サテライト企画として一般市民の参加によるディスカッションなど、社会と稽古場、そして劇場を繋ぐ試みも行った。
《小さな公共の形成》を目指す創作プロセスが注目されたプロジェクト。
▷あらすじ
芸術の革新を目指す青年トレープレフは、女優志望の恋人ニーナを主演とした劇を上演するが、その新形式が母アルカージナに嘲笑されたため、中断してしまう。しかし医師ドールンは作品を気に入り、トレープレフに創作を続けるよう助言するのだった。教師メドヴェージェンコに片思いされている娘マーシャはドールンに、トレープレフへの思いを口にする。一方前後してアルカージナはニーナを褒め称え、愛人の人気作家トリゴーリンを紹介。次第に惹かれあっていくトリゴーリンとニーナを横目に、トレープレフは撃ち落としたかもめに自分を重ね、ピストルで自殺未遂をする。やがてニーナはモスクワへ出て女優になることを決意するのだが……。
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会場 テルプシコール
原作 アントン・チェーホフ『かもめ』、他
翻訳 神西 清
出演 稲垣 干城 上埜 すみれ 瀧腰 教寛 豊田 勇輝 平井 光子 邸木 夕佳 山﨑 敬史
構成・演出 鹿島 将介
舞台監督 弘光 哲也
音響 林 あきの
照明 南 香織
舞台美術 青木 拓也
衣裳 富永 美夏
宣伝美術 青木 祐輔
演出助手 飛田 ニケ
サテライト企画 工藤 順 寺田 凛 楊 忠慧
後援 ロシア連邦大使館 ロシア連邦交流庁 ロシアン・アーツ
制作 重力/Note制作部
主催 重力/Note
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「I Shall Never Return」と言い残されて
とうとう、『かもめ』に戻ってきてしまった。2008年に上演したこのテクスト、原点回帰なのかというと、どうも違う気がしている。「ゆく河の流れは絶えずして、しかももとの水にあらず」と記したのは鴨長明だったが、過ぎ去ったものの多くがもう決して同じ場所に集うことはないという現実を受け入れたとき、「私は二度とここには戻らない」と言って去った人びとの覚悟もまた、厳粛で美しいもののように思われてくる。
『人形の家』のノーラは戻ってこなかった。男に残されたのは、奇跡なき空虚。『かもめ』のニーナは戻ってきてしまった。男にもたらされたのは、すでに保存された永遠。いずれにせよ勝者はいない。彼らはこれから続くであろう膨大な時間のなかに放逐され、ともに潰えたのだった。これらは私たちの祖先が残してくれた〈近代の神話〉であり、男と女がともに生きていく〈場〉を結びなおすためのレッスン。
ところで「二十万年したら、なんにもないさ」と書き記した作家のユーモアを、いささか野暮ったく誤読してみたいと考えている。チェルノブイリや3.11以後の世界を生きる私たちは、少なくとも二万四千年先の人びとまで継承していくシステムを構築する責任を負ってしまった。これは殆どSF的な想像力でしか捉えられない試みだろう。人の一生を遥かに超えた時間的射程と関係を取り続けることが生存条件の一つとなってしまった現在、私たちにとって子供という存在は、重い意味を持つようになっている。愛されない子供たちの戯曲『かもめ』は、いまどう読まれうるのだろう。名作だからOK?勘弁してほしい。
漠然と〈永遠〉とされてきた時間を現実的に翻訳していく必要のある時代に、私たちは生きている。悠久の時のうつろいを慈しむことのできた時代には、もう戻れない。こうしたリアリティを補助線に、この戯曲を〈喜劇〉と名づけたチェーホフの想像力をSF化してみる、そんな上演になればいいと思う。
鹿島 将介
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▷チェーホフ×ロシア料理 キックオフ・ミーティング@吉祥寺CAFE RUSSIA 2015.05.15.
ロシア料理屋を貸し切って、料理を楽しみながら俳優たちによるプレゼンを観客と共に吟味する集い
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【いま劇団という〈場〉を考えること】
ところで、『かもめ』を準備するかたわら、劇団という〈場〉が持つ社会的役割とは何かということを考えています。『かもめ』の初演は2008年でして、私が大学を卒業した翌年に発表したのですが、あの頃と現在とでは「人と人が集まることの意味」が大きく変わってしまった。SNSのような空間性を必要としない繋がり方が普及したのもそうですが、その一方で3・11が起こり、その後地域やコミュニティーの在り方が大きく問い直されるようになりました。「誰と・どこで・どのようにして・生きていくのか」。こうした問いは、集合することが前提となる演劇にも大きく影響を与えます。私の場合、「集団性をどう考えるか」というところから演劇を考えたいために劇団をやっているのもあり、これからどんな集団性がありうるのだろうという問いをずっと抱いています。
このあとサテライト企画という形でご紹介しますが、今回の『かもめ』には企画の傍観者的な立ち位置で参加する人たちがいます。この人たちは不思議な人たちで、出演したいわけでも何かものつくりしたいわけでもなく、一市民として稽古場や劇場に出入りするようなスタンスでいたいという人たちでして、今回のメンバー募集の時点で数人いたんですね。これはどうしたものかということで、劇団や稽古場の開き方も再検討しないといけなくなってしまった。今日お配りする稽古場パスに繋がる話ですが、人ってその場を共有しているだけで、たとえ意見を述べていなくても関与してしまうんですね。「あの人何も言わなかったけど、なんであんな表情していたんだろう」とか「あれは納得していなかったから別の在り方を考えよう」とか、考える契機をもたらしている。で、ついつい稽古場は専門家による強いロジックで支配されやすいのですが、そうではない言葉や関わりの層を拾い上げることはできないかと。で、仮称ですが〈市民ドラマトゥルク〉という存在として関与してみようというアイデアが生まれました。本当に手探りレベルなので、どうなりそうかはこのあと工藤くんに説明してもらいます。
【〈小さな公共〉とこれからの舞台俳優】
2012年に劇場法というものが施行されました。ひらたく言うと、合唱コンクールで使った県民ホールのような公共施設が、アーティストや市民と連携をとって能動的に企画を打ち出していける仕組みにシフトチェンジできるかもしれない、そんな時期を日本の舞台藝術界隈では迎えています。まあ、楽観視できないことの方が多いのですが、制度的な変更はあっても内実がなければうまくいくはずがないですよね。また〈公共〉って納税者間だけで成立するものでもない、観光に来ている外国人ややむをえない事情で難民になってしまった人たちも含めて向き合っていかなければならない。で、私たちのような規模の劇団、アーティスト集団が〈公共〉っていうことを考えるとき、公共劇場で作品を発表したらいいのかというとそれでもない。貸出システムだけは先に成立してしまっているのが現状です。そんなわけで〈小さな公共〉というフレーズで、アーティストと市民がああだこうだできる〈集い場〉を用意して実践してみることから始めてみようと考えてます。それには劇団の在り方、稽古場の在り方、創作プロセスの在り方といったものをひとつひとつ検証して、どんな開き方ができるのかを試す必要がある。このチェーホフとロシア料理屋も、市民ドラマトゥルクも、このあたりの必要から出てきたアイデアなんです。
また日本で舞台俳優やっているというと、親家族から芸能人予備軍みたいに扱われて「いつテレビ出るの?」と言われてしまうのですが、20年30年先にはもっと別の役割を果たす存在として舞台俳優が必要とされる時代が来ると思います。ただ昨今の芸能界の不祥事を見ればわかるように、選ばれる側は立場が弱い。オーディションという制度の中で、自分を商品化することに慣れてしまっていると、自分の言葉を持つことを怠ったり、対等な関係でディスカッションしたりする能力が育たなかったりする。もしくは気に入られることしか言わなくなる。このイベントで俳優たちに簡単なプレゼンをやってもらうのも、ささやかではあるものの、どんな人間がいま何を考えて作品を作っているか、皆さんに知ってもらいたいからです。拙いところもあるかもしれませんが、自分たちが生きる時代を切り拓くには、自らの言葉で位置づけていくしかありません。こう締めくくると堅苦しい感じがしますが、まあ、楽しんでもらえればと思います。
鹿島 将介(イベント時の挨拶から抜粋)
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▷市民ドラマトゥルク 工藤 順 寺田 凛 楊 忠慧
▷飛田ニケによる創作プロセスのデッサン(当日パンフレット)
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日時:
2016年7月
14日(木)19:00
15日(金)19:00
16日(土)14:00★/19:00
17日(日)14:00★/19:00
18日(月・祝)15:00★
※ ★の回は、ポストトークを予定しております。
※ 受付開始=開演30分前 開場=開演15分前
チケット:
一般前売 3,000円/当日 3,300円/学生割引(予約のみ・要身分証明書)2,500円/ペアチケット 5,000円
※ 日時指定・全席自由席
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