▷Project
『かもめ』『三人姉妹』など、四大戯曲で知られるロシアの作家アントン・チェーホフ。
まだ彼が四大戯曲を書く前、自分の生き方について深刻に悩んだ時期に書いた戯曲『イワーノフ』。
かつて社会改革に燃えた青年が、生活の中で次第に情熱を失い、やがてメランコリーに陥って破滅していく物語。
人は何のために生き、何のために死ぬのか?
若き日のチェーホフの言葉に潜む、私たち現代人への問いを演劇化した。
▷あらすじ
会場 テルプシコール
原作 アントン・チェーホフ
翻訳 池田 健太郎
出演 稲垣 干城 瀧腰 教寛 平井 光子 邸木 夕佳 山田 宗一郎
構成・演出 鹿島 将介
音響 佐藤 武紀
照明 太田 奈緒未
舞台美術 尾谷 由衣
衣裳 富永 美夏
宣伝美術 青木 祐輔
制作 重力/Note制作部
協力 長谷川事務所
後援 ロシアン・アーツ
主催 重力/Note
上演時間 58分
死を跨ぐ者たちのお喋り
さて、想像してみよう。
自分自身を蔑む言葉を喋りつづけている男がいる。
あなたや恋人、家族、友人たちが何を言ってあげても、彼は聞く耳を持たない。
周囲が優しく声をかけてあげればあげるほど、自分の境遇が如何に惨めかを訴えてくる。
——イメージするだけでウンザリする光景じゃないだろうか?
さんざんイイワケを重ねた末、やっぱり彼は自殺する。
周りの人々も、あなたも、心のどこかでこの結末がわかっていた。
にもかかわらずピストルでズドン、あの文学につきものの小道具を合図に終幕——。
このベタな顛末が新しい文学/演劇になると意気込んだのは、若き日のチェーホフだ。
「記憶して下さい。私はこんな風にして生きて来たのです。」
これは夏目漱石『こころ』の一節、《明治》に殉死することを選んだ先生が罪の告白の結びに添えた言葉である。
「人は何のために生きるのか?」——それは「人は何のために死ねるのか?」と問うことでもある。
こうした問いも、新旧の価値観が混迷し、その隙をつくように戦争が忍びよる時代においては聞こえ方が変わってくるだろう。
チェーホフも、漱石もそんな時代を生き抜いた作家だった。
だが、多くの者は状況に引きずり回され、何一つ教訓も真理も残せないまま、消え去っていった。
それでも——と、あえて言いたい。
『イワーノフ』には、あの〈お喋り〉が残されているじゃないか。
死へ赴く者がシツコイまでに〈お喋り〉であること、そこには祈りの衝動が潜んでいる。
自らの生を記憶されること、聞く者自身の言葉で再記憶されること。
彼らの遺書を覗き見している私たち読者/観客は、一足先に死を跨いだ者に見返され、密かに祈られている。
作家が、そこに賭けた勇気そのものを演劇にしたい。
鹿島将介
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